減価償却は財務・会計において理解しておくべき概念の一つとして挙げられます。減価償却は、事業用に取得した資産を一気に精算するのではなく、取得コストと耐用年数に応じて毎年経費として計上する会計処理方法です。減価償却により、節税効果が得られるため税負担を平準化でき、現金流出を伴わずに資産の費用化が可能です。
しかし、「減価償却ってどういう仕組みなの?」「減価償却を行うメリット・デメリットをそれぞれ知りたい」と考えている人も多いでしょう。
そこで本記事では、減価償却の概要や仕組み、対象資産について解説します。減価償却を行うメリット・デメリットや仕訳方法、事例やよくある質問もまとめているため、気になる人はぜひ参考にしてください。

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減価償却とは固定資産を耐用年数で費用化する仕組み
減価償却とは、企業が事業に使用する高額な固定資産の購入費用を一度に経費として計上するのではなく、資産が使用できる期間となる法定耐用年数を基準に分割して費用計上していく会計上の手続きです。建物・機械・車両・PCなどの固定資産は、長期間にわたって事業の収益に影響を与えます。しかし、時間と共に資産の価値は劣化や消耗により減少していきます。価値の減少分を会計ルールに従って計画的に費用として計上する方法が減価償却の基本的な考え方です。
例えば、100万円の機械を導入し、耐用年数が5年だった場合、購入した年に100万円全額を費用とするのではなく「毎年20万円ずつ、5年間にわたって費用化する」といった処理を行います。資産の価値が徐々に減少していく実態を財務諸表に正しく反映できます。減価償却を行わずに購入時に全額を費用計上してしまうと、資産を購入した年だけ利益が大幅に減少し、翌年以降は費用負担がないため利益が過大に計上されてしまいます。結果的に企業の正確な経営状況の把握が困難になります。減価償却は、資産の価値減少を適切に費用配分するための、非常に合理的な仕組みと言えるでしょう。
それぞれ順に解説します。
減価償却の目的は利益計算と税負担の平準化
企業が事業活動を行う上で、PCや機械設備・車両・建物などの高額な固定資産の購入は不可欠です。事業に必要な資産は購入したその年だけでなく、長期間にわたって事業に貢献し、収益を生み出す源泉となります。購入した年にその費用を全額経費として計上してしまうと、その年だけ利益が極端に少なく、もしくは赤字になり、資産を使い続ける翌年以降は逆に利益が過大に計上され、各年度の経営成績を正しく把握できません。
そのため、会計上の手続きとして減価償却を行い、利益計算と税負担の平準化を行います。
減価償却を行うことで、企業の利益を各年度で正確に計算できます。資産の取得にかかった費用を、資産が使用できる期間の法定耐用年数にわたって、毎年少しずつ分割して費用計上します。資産がもたらす収益と、資産のコストが対応する形となり、毎年の利益をより実態に即した形で算出できます。
また、法人税や所得税は企業の利益に対して課税されます。減価償却によって毎年の利益が安定すれば、納める税金の額も安定し、突発的に大きな納税負担の発生を防げます。企業は長期的な視点での資金計画や経営戦略を立てやすくなるでしょう。
減価償却の必要性は節税と資金繰りの安定化
減価償却の必要性として、節税と資金繰りの安定化が挙げられます。減価償却費は、会計帳簿上で費用として計上されますが、実際に登録した年に資金が出ていくわけではない非資金費用と呼ばれる特徴を持っています。資産の購入代金は、購入した年にすでに支払いを済ませています。しかし、その後の各年度において、減価償却費として費用を計上することで、課税対象となる利益の額を合法的に圧縮できます。
課税所得が減れば、納めるべき法人税や所得税の額も減少します。節税によって会社内部に留保される資金、手元に残る現金が増えるため、キャッシュフローの安定化につながります。
また、減価償却によって税金の支払いが抑えられることで、手元資金に余裕が生まれ、その資金を運転資金や新たな設備投資、借入金の返済などに充てられます。減価償却は単なる会計上の複雑な手続きではなく、企業の納税額を適正化し、手元資金を確保することで経営の安定性を高める戦略と言えます。適切な減価償却を行うことで、節税とキャッシュフローの安定化につながるでしょう。
減価償却で理解すべき基本用語をわかりやすく解説
減価償却は、企業の正しい利益計算や節税において重要な会計処理ですが、仕組みを理解する上でさまざまな専門用語が存在します。
例えば、耐用年数や取得価額といった言葉の意味を正確に把握すれば、減価償却の理解に直結します。専門用語は、いつから、いくらの資産を、どのくらいの期間で費用化していくのかを決定するための、いわば計算の土台となる要素です。一見すると複雑に感じるかもしれませんが、一つひとつの用語が持つ意味や役割を丁寧に見ていけば、減価償却の全体像を認識できます。
ここでは、減価償却を理解する上で重要な以下の基本用語について、具体例を交えながら紹介します。
- 耐用年数は資産を減価償却できる期間を示す基準
- 取得価額は購入代金と付随費用を含めた総額
- 減価償却費は毎期の費用として計上する金額
- 事業供用日は減価償却を開始する起点となる日
- 残存簿価は資産を償却し終えた後に残る簿価
- 少額減価償却資産と一括償却資産は中小企業の特例
- 少額減価償却資産の特例は30万円未満を即時償却できる制度
それぞれ順に解説します。
耐用年数は資産を減価償却できる期間を示す基準
耐用年数とは、減価償却の計算を行う際に、固定資産が事業のために使用できると法的に見積もられた期間のことを指します。耐用年数が「資産が物理的に使用できる寿命」そのものではないという点には注意が必要です。公平な課税や会計処理を実現するために、税法によって資産の種類や構造、用途ごとに細かく定められている公的な基準(法定耐用年数)を指しています。例えば、一般的なパソコンの法定耐用年数は4年、事務机や椅子は8年、普通自動車(新車)は6年と定められています。仮に、ある企業が自動車を10年以上使う計画であったとしても、減価償却の計算上は6年という基準期間で費用を配分していくことになります。統一の基準を設けることで、企業が恣意的に償却期間を設定して利益を操作することを防ぎ、課税の公平性を保つ役割を果たしています。
また、企業にとっては、耐用年数に基づいて長期的な資産の更新計画や資金計画を立てられます。減価償却の理解を深めるためには、対象となる資産の法定耐用年数が何年なのかを正確に確認しておきましょう。
取得価額は購入代金と付随費用を含めた総額
取得価額とは、固定資産を事業で使用できる状態にするまでにかかったすべてのコストの合計額を指します。一般的には購入代金そのものが取得価額だと考えがちですが、会計上はそれだけではありません。購入代金に加えて、資産を事業の用に供するために直接要した費用である付随費用も取得価額に含める必要があります。付随費用には、機械設備を購入した際の運送費や荷役費、設置工事費、試運転費用などが該当します。
また、不動産であれば購入手数料や登記費用、未経過固定資産税の精算金なども含まれます。例えば、100万円の工作機械を購入し、その運送に5万円、設置作業に10万円かかった場合、機械の取得価額は購入代金の100万円ではなく、付随費用を加えた合計115万円となります。115万円を基に減価償却の計算が行われます。付随費用を正しく取得価額に含めずに単なる経費として処理してしまうと、本来資産計上すべきものが費用として扱われ、費用を取得した期の利益が不当に低くなるだけでなく、税務調査で指摘を受ける可能性もあるため注意が必要です。
減価償却費は毎期の費用として計上する金額
減価償却費とは、固定資産の取得価額を、耐用年数にわたって各会計期間に費用として配分した金額のことです。資産の価値が時の経過と共に減少していく分を、その期の経費として計上するための勘定科目です。減価償却の計算方法にはいくつかの種類があり、代表的な定額法を基準にした場合、毎年均等な額の減価償却費を計上します。例えば、取得価額が100万円で耐用年数が5年の資産を定額法で償却する場合、単純計算で「100万円 ÷ 5年 = 20万円」が1年あたりの減価償却費となります。20万円が、損益計算書において費用として計上され、企業の利益を計算する上で差し引かれます。減価償却費は帳簿上の費用であり、その年に実際に20万円の現金が会社から出ていくわけではありません。お金は資産を購入した年にすでに支払われていますが、会計上は費用を分割計上することで、より実態に即した利益計算が可能になります。現金の支出を伴わない費用となる点が節税や資金繰りの面で大きなメリットを生むポイントと言えるでしょう。
事業供用日は減価償却を開始する起点となる日
事業供用日とは、購入した固定資産を実際に事業の目的のために使い始めた日のことを指し、減価償却計算を開始する上で重要な日付と言えます。減価償却は、資産を購入した日や会社に納品された日から自動的に始まるわけではなく、資産が本来の目的(例えば、製造業であれば製品の生産、運送業であれば荷物の輸送)のために、いつでも稼働できる状態になり、本格的に使用を開始した日が起点となります。例えば、企業が12月10日に新しい機械を発注し、12月25日に工場へ搬入された場合、設置工事や性能テストに時間がかかり、実際に生産ラインで稼働し始めたのが翌年の1月20日だったとすると、事業供用日は1月20日となります。
そのため、機械の減価償却費は、1月20日が含まれる事業年度から計上を開始することになります。特に期末近くに資産を取得した場合は、その資産が年内に事業供用されたかどうかで、年度の減価償却費を計上できるかが決まります。納税額にも直接影響するため、事業供用日を客観的な事実に基づいて正確に記録・管理が必要です。
残存簿価は資産を償却し終えた後に残る簿価
残存簿価とは、固定資産の法定耐用年数が経過し、減価償却の計算がすべて完了した後に、帳簿上に残る資産価値のことを指します。有形固定資産の減価償却が終了した時点での残存簿価は、一般的に「1円」と定められています。設定された1円は「備忘価額」とも呼ばれます。たとえ減価償却を終えて会計上の価値がほとんどなくなったとしても、その資産自体はまだ現物として存在し、事業のために稼働しているケースが多いため0円とせず1円として計上されます。帳簿上の価値を1円だけ残しておくことで、資産を除却(廃棄)または売却するまで、会社がその資産を保有・管理していることを明確に示すことができます。もし完全にゼロにしてしまうと、会計帳簿上からその資産の存在記録が消えてしまい、資産管理が煩雑になる恐れがあります。
また、以前の税制では、取得価額の10%を「残存価額」として償却せずに残すルールがありましたが、平成19年度の税制改正以降に取得した資産については、原則として残存価額をゼロとして計算し、最終的に備忘価額1円を残す形に統一されているため注意が必要です。
少額減価償却資産と一括償却資産は中小企業の特例
一般的に10万円以上の事業用資産は固定資産として計上し、法定耐用年数にわたって減価償却を行うのが原則です。しかし、比較的少額な資産については一つひとつ管理し、長期にわたる償却計算を行うのは、経理体制が限られる中小企業にとっては大きな事務負担と言えます。そのため、負担軽減の措置として、企業の設備投資を促進するために、いくつかの特例制度が設けられています。代表的な制度として「一括償却資産」と「少額減価償却資産の特例」が挙げられます。一括償却資産は、取得価額が10万円以上20万円未満の資産について適用できる制度です。個々の資産の耐用年数にかかわらず、取得価額の合計額を3年間で均等に償却が認められています。減価償却の計算や管理が大幅に簡素化されます。
一方、少額減価償却資産の特例は、青色申告を行う中小企業者等に対して大きなメリットを提供する制度で、取得価額が30万円未満の資産について、年間合計300万円を上限として、取得したその年に全額を費用として計上できる制度です。特例を上手く活用することで中小企業でも安定して費用の導入や会計上の計上が可能になるでしょう。
少額減価償却資産の特例は30万円未満を即時償却できる制度
少額減価償却資産の特例は、中小企業者等の経営を支援するために設けられた、税制優遇措置です。特例を適用できるのは、青色申告法人かつ資本金または出資金の額が1億円以下の法人などの一定の要件を満たす中小企業者です。少額減価償却資産の最大のメリットは、取得価額が1単位あたり30万円未満の減価償却資産について、本来であれば数年にわたって費用化すべきところを、事業の用に供したその年度に全額を損金として一括で計上できる点です。例えば、1台25万円のパソコンを4台(合計100万円)購入した場合、通常であれば耐用年数4年で減価償却を行いますが、特例を使えば購入したその年に100万円全額を費用にできます。その期の課税所得を大幅に圧縮し、納税額を大きく引き下げる効果が期待できます。
ただし、少額減価償却資産には年間の合計限度額が定められており、即時償却できる資産の取得価額の合計は300万円までです。上限額を超える分については、通常の減価償却や一括償却資産の制度を適用する必要があるため注意しましょう。
減価償却の対象資産は時間の経過で価値が減る固定資産
減価償却の対象となるのは、企業が事業活動のために長期間にわたって使用する「固定資産」のうち、時間の経過や使用によってその価値が減少していく性質を持つものです。固定資産とは、販売を目的とせず、1年以上にわたり事業のために使用される資産を指します。中でも減価償却の対象となるのは「時の経過等によって価値が減る」という条件を満たす資産に限られます。
例えば、工場で稼働する機械は、使い続けることで物理的に摩耗し、性能が低下していきます。また、オフィスで使用するパソコンは、数年も経てば技術の進歩により旧式化し、市場価値が著しく下がります。物理的な劣化や機能的な陳腐化によって価値が目減りしていく資産について、価値の減少分を会計上の費用として合理的に期間配分する手続きが減価償却です。
事業のために保有していても、時間が経っても価値が減らない、あるいは価値の減少を客観的に測定できない資産は、減価償却の対象にはなりません。価値が減少するかどうかといった点が、減価償却の対象となるか否かを判断する上での考え方と言えます。
それぞれ順に解説します。
減価償却の対象資産は建物・機械・車両・無形資産など
減価償却の対象となる資産は多岐にわたり、大きく「有形固定資産」と「無形固定資産」に分類されます。有形固定資産とは、その名の通り物理的な形態を持つ資産のことです。具体例は、以下のとおりです。
- 事務所や工場などの建物
- 建物に付随する冷暖房設備や昇降機などの建物附属設備
- 駐車場やアスファルト舗装などの構築物、製造ラインで稼働する機械装置
- 社用車やトラック、フォークリフトなどの車両運搬具
- パソコンやコピー機、応接セットなどの工具器具備品
すべて使用や経年によって価値が減少していく典型的な資産と言えます。一方、無形固定資産は物理的な形を持たないため、法律上の権利や経済的な価値が認められ、同様に時の経過で価値が減少するものが対象です。代表的な例は以下のとおりです。
- 市販の業務アプリケーションなどのソフトウェア
- 発明を保護する特許権
- 製品やサービスを識別するための商標権
- 企業の収益力を示す営業権(のれん)
無形の資産も、定められた耐用年数に基づいて規則的に償却されていきます。
減価償却の対象外は土地など価値が減らない資産
減価償却は、時間の経過と共に価値が減少する資産に適用される会計処理のため、性質上は価値が減らないと考えられる資産は対象外となります。代表的な例が「土地」です。土地は、建物を建てたり、駐車場として利用したりしても、土地そのものが摩耗したり、老朽化したりすることはありません。市場価格の変動によって価値が上下することはあっても、物理的な価値が時の経過で本質的に減少するとは考えられていないため、減価償却は行われません。同様に、土地を利用する権利である「借地権」も非償却資産として扱われます。
また、事業のために保有している資産であっても、価値の減少しないものは対象外です。例えば、歴史的な価値を持つ「骨董品」や「美術品」などは、一般的に時の経過によって価値が下がるとは考えにくいため、原則として減価償却はできません。さらに、まだ建設途中の建物や製作中の機械などを処理する「建設仮勘定」も、事業の用に供されていない段階であるため、減価償却の対象にはなりません。完成して事業で使い始めた時点から、建物や機械として減価償却が開始されます。
減価償却のメリットは節税と資金繰りの改善
減価償却は企業が保有する固定資産の取得費用を耐用年数に応じて分割計上していく会計処理で、仕組みを活用することで単なる会計処理にとどまらず、税金の負担を抑えながら資金繰りを改善できる点が大きなメリットと言えます。
特に減価償却費は実際の現金支出を伴わない費用であるため、損益計算上は利益を圧縮しつつも資金は手元に残る効果があります。そのため、節税効果と資金の内部確保を同時に実現し、企業の安定的な経営に寄与します。適切に減価償却を行うことで損益計算書の数字が実態に近づき、経営判断の精度向上にも役立ちます。減価償却は単なる会計ルールではなく、企業にとって資金計画や成長戦略に直結する重要な仕組みと言えます。具体的に減価償却を行うメリットは、以下のとおりです。
それぞれ順に解説します。
節税効果により税負担を平準化できる
減価償却の代表的なメリットとして、節税効果による税負担の平準化が挙げられます。固定資産を購入した際、費用を一度に全額経費化することはできません。耐用年数に応じて少しずつ費用計上していくことで、利益を毎年均等に圧縮する効果が生まれます。結果として課税所得も緩やかに減少し、法人税の負担が急激に増減することを防げます。
特に設備投資を行った年度は多額の資金流出があるため、減価償却によって利益を圧縮し、納税額を軽減できる点は企業にとって大きなメリットです。
さらに、定額法や定率法といった償却方法を選択することで、経営戦略に応じて税金の発生時期を調整することも可能です。例えば、成長期には利益を多く残したい場合に定額法を選び、初期に税負担を軽くしたい場合には定率法を選ぶなどの活用ができます。仕組みにより、企業は長期的に安定した資金計画を立てやすくなり、経営の持続可能性を高められるでしょう。
現金流出を伴わずに資産を費用化できる
減価償却の特徴として、現金流出を伴わずに費用を計上できる点があります。固定資産を購入した時点で支出はすでに発生しているため、以降の減価償却は会計処理にすぎません。しかし、損益計算書上では費用として認識され、利益を圧縮し課税所得を減らすことができます。結果的に納税額が減り、実際には手元に現金が残るという仕組みです。
特に資金繰りに敏感な中小企業にとって重要であり、資金不足を防ぎつつ投資や運転資金に回せるという強みを持ちます。また、現金の動きと会計上の費用が切り分けられることで、経営者は資金の実態を正しく把握しやすくなります。資金繰り計画や投資判断を行う上で大きな助けとなり、経営の安定化につながります。減価償却の仕組みを理解して活用することで、企業は資産購入後も柔軟に資金を動かすことができ、財務の健全性を維持しながら成長を図れるでしょう。
損益を実態に近づけ経営判断に役立つ
減価償却は、企業の損益を実態に近づける役割を果たし、経営判断の精度を高める効果を持ちます。固定資産は使用するにつれて劣化し、価値が減少していきます。減少分を毎年費用として計上することで、収益と費用が適切に対応し、損益計算書はより現実に即した数値となります。もし減価償却がなければ、資産購入年度にのみ莫大な費用が集中し、その後の年度には費用が計上されないという歪んだ形になり、年度ごとの業績比較や収益性分析が困難になります。
減価償却を行えば、継続的に資産の使用状況を反映させられるため、経営者は正確な収益性や費用対効果を把握できます。新規投資を行うかどうか、資金をどの事業に配分するかといった重要な経営判断に役立ちます。
また、金融機関に提出する決算書も実態を反映した内容になるため、資金調達時の信用力向上にもつながります。減価償却は単なる会計処理を超え、企業の戦略的経営に不可欠な基盤と言えます。
自己金融効果で投資資金を内部に確保できる
減価償却には自己金融効果と呼ばれる大きなメリットがあります。減価償却費が現金を伴わない費用であるため、その分の現金が社内に留まり、内部資金として蓄積される仕組みです。例えば、年間で数百万円単位の減価償却費を計上していれば、同額の現金が納税によって流出せずに手元に残ることになります。残った資金を活用することで、新しい設備投資や研究開発、借入金の返済にも充てることが可能です。外部からの資金調達に頼らずに内部資金を循環させられる点は、特に中小企業にとって大きな強みと言えます。
また、資金繰りが安定することで、突発的な支出や経済環境の変化にも柔軟に対応できる体制を整えられます。さらに、内部留保資金は、将来の成長戦略に必要な資金源としても機能します。結果として、減価償却は単なる節税以上の価値を持ち、企業が持続的に成長し、安定した経営基盤を築くための強力な仕組みと言えるでしょう。
減価償却の計算方法をわかりやすく解説
減価償却とは、企業が保有する建物や機械、車両などの固定資産を購入した際に、取得費用を一度に経費計上せず、耐用年数に応じて少しずつ分割して費用にしていく仕組みを指します。会計や税務において重要な考え方であり、企業の損益を実態に近づけ、安定的な財務状況を示す役割を果たします。減価償却の方法にはいくつか種類があり、
減価償却の計算方法は複数存在します。方式はそれぞれ計算方法や特徴が異なり、どの方式を選ぶかによって費用の計上額やタイミングが変わり、企業の利益や税負担に大きな影響を及ぼします。経営者にとっては、資産の利用状況や経営方針に合わせて最適な償却方法を選ぶ必要があります。代表的な減価償却の計算方法は、以下のとおりです。
それぞれ順に解説します。
定額法は毎年同じ額を計上する方式
定額法とは、減価償却の中で最も基本的かつ広く利用されている方法です。資産の取得価額から残存価額を差し引いた金額を耐用年数で均等に割り、毎年同じ額を費用として計上します。例えば、取得価額100万円、残存価額0円、耐用年数5年の資産なら100万円÷5年=20万円が毎年の減価償却費となります。定額法は計算がシンプルで理解しやすく、経営計画や資金繰りの予測が容易になる点がメリットです。特に建物やオフィス機器のように使用状況が安定している資産に適しています。
ただし、実際には資産の価値は初期に大きく減少することも多いため、定額法は使用実態を正確に反映していない場合があります。安定した損益計算書を作成できる点は経営上のメリットであり、税務上も広く認められているため、多くの企業が採用している標準的な方法です。
定率法は初年度に多く計上する方式
定率法とは、資産の帳簿価額に一定の償却率を掛けて毎年の減価償却費を算出する方式です。初年度は帳簿価額が大きいため、償却額も多くなり、年を追うごとに減少していきます。例えば、取得価額100万円、耐用年数5年、定率法の償却率が0.4の場合、初年度は100万円×0.4=40万円を償却し、翌年度以降は残高に対して同じ割合を掛けて計算します。
定率法は資産の価値が早期に減少する実態を反映しやすく、導入初期に節税効果を得られる点が特徴です。特に技術革新が早い機械や電子機器のように、初期の使用価値が高い資産に適しています。ただし、後年度の償却費は減少するため、利益が増加し税負担が大きくなる点に留意が必要です。そのため、資金繰りや税務戦略を考慮した上で定率法を採用するかどうか判断しましょう。
生産高比例法は使用量に応じて費用化する方式
生産高比例法とは、資産の使用状況や生産量に応じて減価償却費を計算する方法です。例えば、機械の総生産能力を10万個と見積もり、機械をある年度に2万個の製品生産に使用した場合、取得価額から残存価額を差し引いた償却基礎額を10万個で割り、そのうち2万個分を当年度の減価償却費とします。生産高比例方は使用量に比例して費用を配分するため、資産の実態に即した損益計算が可能となります。稼働度合いが一定ではない工場設備や生産機械などに特に有効で、資産をどれだけ活用したかに応じた会計処理が行えます。
ただし、生産量や使用実績を毎期的確に把握する必要があるため、事務負担が大きくなる点はデメリットです。適切に活用すれば、経営判断や業績評価を実態に沿って行えるため、変動の大きい製造業では有効な方法と言えます。
リース期間定額法はリース資産を期間で費用化する方式
リース資産の減価償却は、法定耐用年数またはリース契約期間のいずれか短い期間を基準に、定額法で費用化するのが原則です。例えば、取得価額120万円のリース資産を5年契約で利用する場合、120万円÷5年=24万円を毎年の減価償却費として計上します。リース期間定額法は、定額法と似ていますが、耐用年数ではなくリース契約期間を基準に償却する点が特徴です。リース取引は資金を一度に大きく支出せずに資産を利用できるため、中小企業やスタートアップ企業にとって資金繰りの面で有利です。
さらに、リース期間が短いため、資産の陳腐化リスクを回避できる利点もあります。ただし、リース契約の内容によっては税務上の扱いに注意が必要で、ファイナンスリースとオペレーティングリースで会計処理が異なります。そのため、契約時には、リース会計基準や税務規定を確認し、最適な処理を選択することが求められます。
減価償却費の仕訳方法は直接法と間接法
減価償却費の仕訳方法には、大きく分けて「直接法」と「間接法」の2種類があります。どちらの方法を採用するかによって、固定資産の帳簿上の記載方法や貸借対照表での見え方に違いが出てきます。直接法は固定資産の帳簿価額を直接減らす仕組みであり、資産の残高が減少していく様子を明確に示せます。
一方、間接法は減価償却累計額を使って処理する一般的な方法で、資産の取得価額をそのまま残しながら減価償却の累積を管理します。実務では税務申告や会計基準の観点から、間接法を用いるのが主流ですが、仕訳の考え方を理解するためには両者の違いを把握することが重要です。特に経営判断や財務諸表の分析においては、どの処理方法で帳簿が作成されているかを理解することで、資産の実態をより正確に把握することができます。ここでは、減価償却の仕訳方法である、直接法と間接法について解説します。
それぞれ順に解説します。
直接法は帳簿価額を直接減額する方法
直接法とは、減価償却費を計上する際に固定資産の帳簿価額をそのまま減らす仕組みを取ります。具体的には、「減価償却費/建物」や「減価償却費/備品」といった仕訳を行い、資産勘定を直接減額します。直接法は、資産の残高が毎期減っていくことを帳簿上で明確に表せるため、固定資産の実際の価値を分かりやすく把握できるという特徴があります。
しかし、減価償却累計額を表示しないため、取得価額や減価償却の累積状況を外部の人が確認しづらいデメリットがあります。直接法はシンプルで理解しやすい反面、財務諸表の比較や資産管理には不向きとされるため、実務で用いられることは少なく、教育的な場面や小規模な記録に用いられるケースが多いです。
間接法は累計額を用いる一般的な方法
間接法は、減価償却費を計上する際に「減価償却費/減価償却累計額」と仕訳する方法です。固定資産の帳簿価額を直接減らさず、取得価額はそのまま残しておき、別勘定である「減価償却累計額」に累積していきます。貸借対照表では「取得価額-累計額=帳簿価額」という形で資産の残存価値を把握でき、取得時点の金額や減価償却の進捗を同時に確認できます。間接法は財務諸表の比較や管理に優れており、会計基準や税務申告でも一般的に採用されている方法です。
そのため、企業の決算書はほぼすべて間接法で作成されています。直接法に比べると仕訳がやや複雑に感じられる場合もありますが、資産の管理や投資判断に有用な情報を提供できる点で、間接法は最も実務的で信頼性の高い方法と言えるでしょう。
減価償却の事例|車・賃貸建物・個人事業主の場合
減価償却は、資産を使用する期間に応じて費用配分を行う会計処理です。車や賃貸建物、個人事業主の資産購入など、対象となるケースは多岐にわたります。車の場合は耐用年数や償却方法の選択が重要となり、賃貸建物では建物本体と附属設備を区分して処理する必要があります。
また、個人事業主の場合は青色申告や特例制度の活用が可能で、節税効果や資金繰りに影響を与える点に注意が必要です。いずれの事例においても税法や会計基準に従い正しく処理することが求められます。不適切な減価償却処理は税務調査で指摘される可能性があり、追徴課税のリスクにつながります。
そのため、資産の種類ごとにルールを理解し、適切に記帳・申告を行うことが重要です。ここでは、具体的に車、賃貸建物、個人事業主それぞれの事例について解説していきます。
それぞれ順に解説します。
車を購入した場合の減価償却は耐用年数と方式を確認
車両を購入した場合、減価償却の計算は取得価額・耐用年数・償却方法の3つを軸に行います。車両の耐用年数は税法で定められており、自家用乗用車は6年、営業用車両であれば4年と設定されています。償却方法は定額法または定率法のいずれかを選択できますが、近年は定額法が基本とされることが多いです。
定額法では毎年同額を費用化するため、安定した経費計上が可能です。一方、定率法は初年度の費用が大きく、年数が経過するにつれて徐々に少なくなる特徴があるため、初期に税負担を軽減したい場合に向いています。個人事業主がマイカーを事業で併用する場合は、事業使用割合を計算し、割合に応じて減価償却費を経費に計上する必要があります。怠ると過大経費計上とみなされ、税務調査で否認される可能性があるため注意が必要です。
賃貸用建物の減価償却は本体と附属設備を分けて処理
賃貸用建物を所有する場合、減価償却は建物本体と附属設備を区分して処理する点が重要です。建物本体の耐用年数は構造によって異なり、鉄筋コンクリート造は47年、木造は22年などと細かく定められています。一方で、エレベーターや空調、給排水設備などは附属設備として区分され、建物とは異なる短い耐用年数が設定されています。
そのため、減価償却を正しく行うためには、取得価額を本体部分と設備部分に振り分けて記録し、各資産ごとに適切な耐用年数で償却を行う必要があります。もし一括して処理してしまうと、過大な費用計上や逆に不足計上となり、税務上のトラブルを招くリスクがあります。賃貸業では減価償却費が経営成績に直結するため、毎年の損益管理や節税対策においても極めて重要な役割を果たします。特に新築購入時やリフォーム時には、附属設備の区分を誤らないように専門家へ相談すると安心です。
個人事業主の減価償却は青色申告や特例制度を理解する
個人事業主にとって減価償却は、節税や資金繰りに大きく関わる要素です。青色申告をしている場合は65万円控除や少額減価償却資産の特例を活用できるため、事業規模に応じて有利な方法を選択できます。例えば、30万円未満の資産であれば一括経費化できる制度があり、少額資産を多く導入する小規模事業者にとっては大きなメリットと言えます。
また、中小企業等経営強化税制や即時償却制度を利用すれば、一定の設備投資をした際に初年度で全額を費用化することも可能です。利益を圧縮し、法人や個人の所得税負担を軽減する効果が期待できます。
ただし、特例には適用要件や届出が必要であり、誤った処理を行うと後から修正申告が必要になるリスクがあります。個人事業主は、減価償却を単なる会計処理として捉えるのではなく、資金繰りや節税戦略の一環として計画的に取り入れることが重要でしょう。
減価償却の注意点は取得時期や処分時
減価償却は資産を使用する期間にわたり費用化する重要な会計処理ですが、適用にあたっては細かなルールや注意点があります。特に資産を年度途中で取得した場合の計算方法や売却・除却・廃棄といった処分時の仕訳、中古資産を購入した際の残存耐用年数の見積もりなどは誤りが生じやすいポイントです。
また、中小企業や個人事業主には特例制度が用意されており、節税や資金繰りの面で有利になることがあります。少額資産や一括償却資産に関しても、金額基準に応じて処理方法が異なり、即時償却や均等償却のルールを正しく理解しておく必要があります。誤ると税務上のリスクが生じ、追徴課税につながる可能性もあるため注意が必要です。減価償却を行う際の具体的な注意点は、以下のとおりです。
それぞれ順に解説します。
年度途中の取得資産は月割り計算が必要
資産を年度途中で取得した場合、年度の減価償却費は取得月から年度末までの月数に応じて月割り計算を行います。例えば、4月に取得した場合は、4月から翌年3月までの12か月分を償却しますが、10月に取得した場合には6か月分のみを償却します。このルールを無視して1年分を計上すると、当期の費用が過大に計上され、利益や税務計算に誤りが生じてしまいます。月割り計算は会計の正確性を確保するだけでなく、資産の利用実態に即した処理を行うための基本的な考え方と言えます。
また、リース資産や耐用年数の短い資産では月割りの影響が特に大きくなるため、実務では細かい確認が不可欠です。中小企業や個人事業主の場合でも、青色申告をしている場合には税務署のチェック対象となることが多く、誤りがあると修正申告や追加納税が必要となる可能性があります。そのため、資産の取得時期を記録し、月割り計算を適切に行うことは、減価償却処理における重要なポイントと言えるでしょう。
売却・除却・廃棄は帳簿価額との差額処理が必要
減価償却資産を売却・除却・廃棄する場合には、現時点での帳簿価額と売却額や廃棄費用との差額を損益として処理する必要があります。例えば、取得価額100万円の設備を累計で70万円償却していた場合、帳簿価額は30万円となります。資産を20万円で売却した場合は10万円の売却損が発生しますし、逆に40万円で売却できれば10万円の売却益となります。除却や廃棄の場合も同様に、帳簿価額を費用として計上し、損失として処理するのが基本です。減価償却累計額との整合性をしっかり確認が必要で、誤って累計額を調整し忘れると、資産残高が不正確になり財務諸表の信頼性を損ないます。
さらに、廃棄の場合にスクラップとして売却した場合は該当収入も処理に含める必要があります。正しい差額処理を行うことは、課税所得の算定や資金繰りの把握に直結し、税務調査でもチェックされやすい重要なポイントを抑えられるでしょう。
中古資産は残存耐用年数を見積もる必要
中古資産を取得した場合、資産の残存耐用年数を合理的に見積もって減価償却を行う必要があります。新品と異なり、すでに使用された期間があるため、取得した時点から新たに法定耐用年数を適用するのではなく、残存耐用年数を計算して償却するのが原則です。例えば、法定耐用年数が10年の機械を5年使用後に購入した場合、残存耐用年数は5年ではなく、一定の算式に基づき短縮されます。税務上は「簡便法」が定められており、原則として法定耐用年数の20%に相当する年数を下限として計算する仕組みになっています。
会計上のルールを理解せずに償却を行うと、税務上否認され追加課税を受けるリスクがあります。中古資産は取得価格が安いため導入メリットが大きい反面、償却のルールを誤ると節税効果が損なわれ、結果的に資金繰りを悪化させる可能性もあります。そのため、中古資産を購入する際は事前に耐用年数の算定方法を確認し、適切に処理を行いましょう。
中小企業や個人事業主は特例制度を活用できる
中小企業や個人事業主の場合、減価償却に関して税制上の特例制度を活用することで大きなメリットを得られます。代表的な制度は少額減価償却資産の特例で、取得価額30万円未満の資産であれば、一定の条件の下で取得年度に全額を経費計上することが可能です。さらに、特別償却や即時償却制度を利用すれば、一定の投資に対して初年度に多額の償却を認められるため、資金繰りの改善や節税効果が期待できます。
例えば、生産性向上設備投資促進税制や中小企業経営強化税制などがあり、対象となる資産や要件を満たすことで優遇を受けられます。制度は資金力に限りのある中小企業や個人事業主にとって、投資負担を軽減し事業拡大を後押しする重要な仕組みです。
ただし、制度の適用には申請や届出が必要なケースが多いため、税理士などの専門家に相談して正しく活用することが推奨されます。特例を理解して積極的に活用することが、経営を安定させる有効な手段と言えるでしょう。
少額資産は30万円未満を即時償却できる
中小企業や個人事業主の皆様にとって、日々の事業運営における設備投資は、事業成長のために不可欠な要素です。しかし、PCや周辺機器、ソフトウェア、オフィス家具などの購入は、時に大きな資金負担となります。一般的に10万円以上の資産を購入した場合、費用は購入した年に全額経費として計上することはできず、減価償却を経て、法律で定められた耐用年数にわたって分割して費用化する必要があります。資産価値の減少を正確に反映する一方で、購入初年度のキャッシュフローを圧迫する一因にもなり得ます。
該当事業者のみにはなりますが、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例などの制度を活用すれば、青色申告を行っている資本金1億円以下の中小企業者や個人事業主を対象に、取得価額が30万円未満の減価償却資産について、購入・事業利用を開始した年度に、全額を一括で経費として計上が可能です。一般的には即時償却と呼び、25万円の業務用パソコンを導入した場合、通常であれば数年にわたって減価償却しますが、この特例を適用すれば、購入した年の経費として25万円全額を計上が可能です。
課税対象となる所得を大きく圧縮し、結果として法人税や所得税の納税額を抑える効果が期待できます。事業の収益状況を認識し、問題なければ少額資産は該当制度を活用し即時償却すると良いでしょう。
一括償却資産は20万円未満を3年で均等償却できる
一括償却資産とは、取得価額が20万円未満の資産で、通常の減価償却方法に代えて3年間で均等に費用化する制度です。例えば、18万円のコピー機を購入した場合、通常であれば耐用年数に基づいて減価償却しますが、一括償却資産として処理すれば、3年間で毎年6万円ずつを費用計上できます。少額減価償却資産の特例と異なり、青色申告でなくても利用できる点が特徴です。そのため、白色申告の事業者や特例の上限を超えた場合でも活用できます。一括償却資産の制度を利用することで、経費の平準化が可能になり、利益の変動を抑えられるメリットがあります。特に一括償却資産には年間合計の上限はなく、取得価額が20万円未満であれば3年間で均等償却が可能です。30万円未満の資産を複数購入した場合でも、合計取得価額が300万円を超えた分については、特例の対象外となり、原則通り通常の減価償却を行う必要があります。
また、取得価額が30万円未満も判断基準の一つです。資産本体の価格だけでなく、購入に際してかかった送料や設置費用などの付随費用も含めた金額で判断される点に注意が必要です。例えば、本体価格が29万円の機器でも、送料や設置費用で1万5千円かかった場合、取得価額は30万5千円となり、この特例の対象から外れてしまいます。特例の適用を受けるためには、資産を購入しただけでなく事業の用に供した事業年度において、損金として経理処理を行うことが必須要件です。
さらに、確定申告の際には、申告書に「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」を添付して提出する必要があります。手続きを適切に行うことで、初めて節税効果が生まれます。購入した年度の利益を大きく圧縮し、納税負担を軽減することで、手元に残るキャッシュフローが改善され、資金をさらなる事業投資や運転資金に充てるといった、健全な経営サイクルを実現するための強力なサポートとなる制度と言えるでしょう。
減価償却に関するよくある質問に回答
減価償却をしないとどうなりますか?
減価償却を行わない場合、資産の取得価額が帳簿にそのまま残り続けます。結果、帳簿上では資産が実際以上に多く表示され、企業の財務状態が正確に把握できなくなります。
また、費用を計上しない分、利益が過大に見積もられるため、経営判断を誤るリスクが高まります。税務面では、減価償却費は必要経費として認められているため、償却を行わなければ損金算入の機会を失い、法人税や所得税の負担が増加します。資金繰りの悪化や税務調査時の指摘リスクもあるため、減価償却による適切な処理は必須と言えるでしょう。
税務と会計で異なる処理は可能ですか?
会計上の減価償却は、企業が資産の利用実態や会計方針に基づいて償却方法や耐用年数を選択できます。しかし、税務計算では法人税法などの規定に従う必要があり、使用できる方法や耐用年数が限定されます。そのため、会計では定額法を用い、税務では定率法を採用するといった差異が生じることがあります。これらの違いは「会計上の利益」と「課税所得」との間に一時的な差異が生じ、税効果会計を用いて調整するのが一般的です。適切に処理することで財務諸表の信頼性を確保し、経営者や投資家に正しい情報提供が可能です。
修繕費と資本的支出の区別はなんですか?
修繕費と資本的支出の違いは、費用計上のタイミングに直結する重要なポイントです。修繕費は資産を元の状態に維持したり、軽微な修理を行ったりする支出で、発生年度に全額を経費処理できます。
一方、資本的支出は、資産の性能を向上させたり耐用年数を延長するための支出であり、資産に計上して減価償却の対象とする必要があります。判断を誤ると課税所得や利益計算に影響するため、国税庁のガイドラインや専門家の意見を参考にし、慎重に区分することが大切です。正しく判断することで税務リスクを回避できるでしょう。
償却方法の変更は可能ですか?
会計上の減価償却方法は、合理的な理由がある場合には変更が認められます。例えば、資産の利用形態が変化したことで、従来の定率法よりも定額法の方が実態に適している場合などです。
ただし、変更を行う場合には注記が必要で、比較可能性を損なわないことが求められます。税務上では法人税法の規定に基づき、原則として所轄税務署への届出や承認が必要になる場合があり、手続きも慎重に行わなければなりません。安易に変更すると会計上の透明性を損なったり、税務署からの指摘を受ける可能性もあるため、専門家に相談しながら進めるのが望ましいと言えるでしょう。
減価償却の方法はどれを選べばよいですか?
減価償却方法には定額法、定率法、少額減価償却資産の特例などがあります。定額法は各年度に一定額を計上でき、損益の安定を重視する企業に向いています。定率法は初期に多くの費用を計上できるため、早期の節税効果を期待する企業に適しています。
また、中小企業や個人事業主は特例制度を利用し、30万円未満の資産を一括で経費処理が可能です。どの方法を選ぶかは、資産の利用実態、企業の資金繰り、税務戦略などを考慮する必要があります。自社の経営状況や会計方針と照らし合わせ、最も効果的な方法を選択が重要です。